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第4章「情報リテラシー・基本理念とAI社会原則」は、生成AIパスポート試験のなかで最も「落としにくいのに、対策を後回しにされやすい」章です。
理由は単純で、技術の話ではないからです。フィッシング、スミッシング、ヴィッシング、匿名加工情報、限定提供データ、アカウンタビリティ。どれも読めば意味は分かるのに、似た言葉が並ぶと選択肢で迷います。しかも、この章は法律とガイドラインの話なので、覚え間違いがそのまま実務のリスクになるという性質もあります。
クラウド各社のAI資格を持っている方は、特に気をつけてください。筆者はAWSのAI Practitioner(AIF-C01)とAzureのAI-900を取ったあとでこの試験を受けましたが、丸ごと足すことになったのは第4章でした。どちらの資格にも「責任あるAI」という単元があり、公平性や透明性といった原則の名前は確かに重なります。重なるのはそこまでで、個人情報保護法、著作権、不正競争防止法、AI社会原則、AI事業者ガイドライン、AI新法の中身は入っていません。名前を見たことがあるから大丈夫と思って飛ばすと、ここで取りこぼします。
この記事では、第4章の範囲を「セキュリティの手口」「個人情報」「権利」「原則と法律」の4つに分け、それぞれ1枚の体系図にまとめます。似た用語は表で並べて、どこで切れるかを明示します。
この記事でわかること
- インターネットリテラシーを構成する4つの要素
- フィッシング系の手口を、経路(メール・SMS・電話)で見分ける方法
- 個人情報・個人識別符号・要配慮個人情報・機微情報・匿名加工情報の関係
- マスキングだけでは匿名加工情報にならない理由(頻出の引っかけ)
- 知的財産権の体系と、肖像権・パブリシティ権・不正競争防止法の位置づけ
- AI生成物の著作権と、侵害を判断する2つの要素(類似性・依拠性)
- AI社会原則の3つの基本理念、AI事業者ガイドラインの3つの主体、AI新法の中身
- 第4章の形式に合わせた例題3問と解説
この記事は、生成AIパスポート試験の全範囲を章別にまとめたシリーズの第4章です。
▶ 生成AIパスポート 第3章「現在の生成AIの動向」の要点|RAG・AIエージェント・MCP・ディープフェイク
第4章で問われるのは「誰の権利か、誰の責任か」
第4章は6つの中項目に分かれ、出題数は第3章と並んで多い章です。
中項目ごとの出題のされ方
| 中項目 | 主な用語 | 問われ方 |
|---|---|---|
| インターネットリテラシー | インターネットリテラシー、テクノロジーの理解、情報リテラシー、デジタル市民権 | 4つの要素の説明を選ぶ |
| セキュリティとプライバシー | フィッシング、スミッシング、ヴィッシング、スピアフィッシング、ベイト攻撃、ブラックメール、プレテキスト、マルウェア、ランサムウェア | 場面から手口の名前を選ぶ |
| 個人情報保護の観点 | 個人情報保護法、個人情報取扱事業者、個人識別符号、要配慮個人情報、機微情報、匿名加工情報、マスキング | 定義を選ぶ/該当・非該当を選ぶ |
| 制作物に関わる権利 | 知的財産権、著作権、特許権、商標権、意匠権、肖像権、パブリシティ権、不正競争防止法、営業秘密、限定提供データ | 権利の名前を選ぶ/AI生成物の扱いを選ぶ |
| AIを取り巻く理念と原則 | 3つの基本理念、AI社会原則、共通の指針、AIガバナンス、3つの主体 | 理念・原則の名前/主体の判定 |
| AI新法 | AI新法、人工知能戦略本部、人工知能基本計画 | 法律の性格・組織名・計画 |
第4章を解く軸は「誰の権利か、誰の責任か」
第4章の問題は、問われているのが誰の権利なのか/誰の責任なのかを特定すると、ほとんど切れます。
- 個人情報の話 → 情報を提供した本人の権利と、個人情報取扱事業者の義務
- 著作権・特許権の話 → 創作した人の権利
- 肖像権・パブリシティ権の話 → 写っている人の権利(人格の側か、経済的価値の側か)
- 営業秘密・限定提供データの話 → 情報を管理している企業の権利
- AI社会原則・ガイドラインの話 → AI開発者・AI提供者・AI利用者のどの立場の責任か
そしてもう1つ、第3章のディープフェイクと同じ型があります。対処を問う問題では「確認する」「絞る」「あらかじめ決めておく」方向の選択肢が正解になります。「効率を優先して省略する」「相手が指定した方法で確認する」という方向は、ほぼ例外なく誤りです。
インターネットリテラシーの4つの要素
図:インターネットリテラシーは4つの要素から成ります。技術の中身を知る「テクノロジーの理解」、情報の正しさを見極める「情報リテラシー」、自分と他人を守る「セキュリティとプライバシー」、デジタル社会の一員としての振る舞いを問う「デジタル市民権」。試験では、それぞれ単独で説明を選ばせる形で出ます。
インターネットリテラシーは、Webサイトやメール、SNSなどを安全に、正しく、そして効果的に使うための知識と行動を総合的に表す言葉です。全体の総称がこれで、その下に4つの要素があります。
- テクノロジーの理解:生成AIや検索の仕組みが何をしていて、何ができないのかを知ったうえで使う力
- 情報リテラシー:Webの記事やSNSの投稿などから必要なものを探し出し、その内容が正しいか、信頼できるかを見極めたうえで、目的に合わせて活用する能力
- セキュリティとプライバシー:自分と他者の情報を守るための知識と行動
- デジタル市民権(デジタル・シティズンシップ):デジタル社会の一員として、他者の権利を尊重しながら責任ある行動で参加するという考え方
「情報を見極める」が情報リテラシー、「仕組みを知って使う」がテクノロジーの理解、「他者を尊重して責任ある行動をとる」がデジタル市民権。この3つの切り口で選択肢を分けてください。
セキュリティ:手口の名前は「経路」と「狙い方」で分かれる
この中項目は似た言葉が7つも並ぶため、整理せずに覚えようとすると確実に混ざります。分類の軸は2つだけです。
図:ソーシャルエンジニアリング攻撃の手口を、使う経路(メール・SMS・電話・対面)と狙い方(不特定多数か、狙い撃ちか)で分類したもの。マルウェア系は、人の心理ではなくソフトウェアを使う攻撃として別枠に置いています。
まず大枠:ソーシャルエンジニアリング攻撃とマルウェア
ソーシャルエンジニアリング攻撃は、プログラムの欠陥ではなく、人の心理や行動の隙を突いて情報や操作を引き出す攻撃の総称です。思い込みや急いでいる状況につけ込む、というのが定義の核です。
マルウェアは、利用者に害を与えることを目的に作られたソフトウェアをまとめて指す言葉です。その中の1つがランサムウェアで、感染したパソコンの中のファイルを暗号化して開けなくし、元に戻すための金銭を要求します。対策として問われるのはアンチウイルスソフトウェア(マルウェアを検出し、駆除や隔離によって活動を防ぐ)と、ランサムウェアへの備えである「重要なデータの控えを、普段つないでいない場所にも保管しておく」です。つないだままのバックアップは一緒に暗号化されるため、切り離しておく、という点が答えになります。
経路で分かれる3つ:フィッシング・スミッシング・ヴィッシング
| 手口 | 経路 | 典型的な場面 |
|---|---|---|
| フィッシング詐欺 | Web・メール(QRコード経由も含む) | チラシのQRコードを読み取ると通販サイトによく似た画面が出て、カード番号の入力を求められる |
| スミッシング | SMS(ショートメッセージ) | 宅配業者を装ったSMSが届き、本文のリンクから偽サイトへ誘い込まれて情報を入力させられる |
| ヴィッシング | 電話(音声通話) | 銀行の担当者を名乗る電話で、口座の手続きに必要だとしてIDやパスワードを聞き出される |
SMSならスミッシング(SMS + Phishing)、音声ならヴィッシング(Voice + Phishing)。 名前の由来がそのまま経路を表しているので、英語の元の言葉で覚えると取り違えません。
悪意のあるQRコードは、スミッシングではなくフィッシング詐欺として扱われる点に注意してください。QRコードは入口であって、本体は偽サイトへ誘導してカード情報などを入力させる手口だからです。
狙い方で分かれる4つ:スピアフィッシング・プレテキスト・ベイト攻撃・ブラックメール
| 手口 | 特徴 |
|---|---|
| スピアフィッシング | 特定の個人や組織を事前に調べ、業務に関係があるように見せかけたメールで情報を盗む。不特定多数ではなく狙い撃ち |
| プレテキスト | 同僚・取引先・システム管理者になりすまし、もっともらしい事情をでっち上げて機密情報を提供させる |
| ベイト攻撃 | 無料のソフトウェアやUSBメモリなど、相手が欲しがるもの(餌)で誘って情報を抜き取る |
| ブラックメール | 相手の弱みや不利になる情報をちらつかせ、公表しないことと引き換えに金銭や情報を要求する |
スピアフィッシングとプレテキストは似ていますが、スピアフィッシングはメールで狙い撃ち、プレテキストは身分を偽って作り話で信用させるという違いで切れます。問題文に「社長の名前をかたり、進行中の取引の内容に触れた振込依頼のメールが届いた」とあればスピアフィッシングです。
Wi-Fiと生成AI由来の脅威
Wi-Fiに潜む罠として問われるのは、「店名によく似た名前の、パスワードなしで使える無線LAN」に接続する場面です。危険の説明は「攻撃者が設置した偽のアクセスポイントを経由して、やり取りした内容を盗み見られる」ことです。
生成AIの技術的発展に潜む脅威として問われるのは、「自然な文面の詐欺メールや、本人に似せた声・映像が容易に作られ、真偽を見分けにくくなる」ことです。第3章のディープフェイクの話と同じ内容が、第4章ではセキュリティの文脈で出てきます。
個人情報:用語の包含関係を1枚で押さえる
個人情報保護の中項目は、用語の包含関係が理解できれば一気に片付きます。
図:個人情報を中心にした用語の関係。個人識別符号は「それ単体で個人を識別できるもの」として個人情報に含まれます。要配慮個人情報はその中でも取扱いに特別な配慮が必要なもの、機微(センシティブ)情報は金融分野のガイドラインでさらに範囲を広げたものです。匿名加工情報は、法定の基準で加工して個人情報の枠から出たものを指します。
個人情報と、その周辺の4つの用語
個人情報保護法は、生存する個人に関する情報全般の適正な取扱いについて、事業者が守るべき義務を定めた法律です。「生存する」が定義に入っているため、すでに亡くなった人の氏名と生年月日は個人情報にあたりません。「個人情報にあたらないものを1つ選びなさい」という出題で、ここが答えになります。
個人情報取扱事業者は、個人情報データベース等を事業に使っている者です。利用目的の特定、安全管理、第三者提供の制限といった義務を課されます。
個人情報保護委員会は、個人情報保護法に基づいて設置され、民間の事業者などが個人情報を適切に取り扱っているかを監視・監督する国の機関です。
個人識別符号は、健康保険の被保険者番号やパスポート番号のように、その番号などだけで特定の個人を識別できるものとして政令で定められたものです。「政令で定められた」「それだけで個人を識別できる」が目印です。
要配慮個人情報は、人種、信条、社会的身分、病歴、犯罪の経歴など、不当な差別や偏見が生じないよう取扱いに特に配慮を要する情報です。
機微(センシティブ)情報は、金融分野のガイドラインで定められた呼び方で、要配慮個人情報に加えて、労働組合への加盟や本籍地なども含めて取扱いに配慮を求めるものです。「金融分野のガイドラインで」「労働組合への加盟や本籍地も含めて」という記述が出たら機微情報です。要配慮個人情報より範囲が広い、という関係で覚えてください。
マスキングと匿名加工情報の違いが最頻出の引っかけ
匿名加工情報は、特定の個人を識別できず、元の個人情報に復元もできないように、法律の定める基準に従って加工した情報です。この基準を満たせば、本人の同意なく第三者に提供できるようになります。
マスキングは、情報の一部を伏せ字に置き換える処理そのものを指します。生成AIに社内の問い合わせ記録を要約させる前に、顧客の氏名と電話番号を伏せ字に置き換える、といった使い方です。
引っかけはここです。氏名などを見えなくするマスキング処理だけを行っても、匿名加工情報にはなりません。 法定の加工基準を満たしていないため、処理後の情報は引き続き個人データとして扱う必要があります。「マスキングしたから匿名加工情報として自由に使える」という選択肢は誤りです。
生成AIに個人情報を入力するときの考え方
個人情報保護委員会の注意喚起に沿う考え方として問われるのは、「特定した利用目的を達成するために必要な範囲内であることを、十分に確認してから入力する」です。
外部の生成AIサービスに社内文書を入力する前の対応としては、次の2つが正解になります。
- 文書に含まれる顧客の氏名や連絡先を、伏せ字に置き換えてから入力する
- そのサービスの規約や設定で、入力した内容がどう扱われるかを確かめる
筆者自身も、ここは用途で線を引いています。資格の学習など業務と関係のない用途であれば無料のサービスでも使いますが、業務の文書は、入力内容が学習に使われない設定になっていることを確認したサービスにしか入れません。無料のサービスは入力が学習に使われる前提で考えたほうが安全で、それは「自分の情報」ではなく「会社や顧客の情報」を間接的に外へ出すことになるからです。試験で問われる「規約や設定で確かめる」は、実務でそのまま効く習慣です。
権利:知的財産権の体系と、AI生成物の扱い
知的財産権の体系図
知的財産権は、特許権や著作権、商標権などを含む、法令で定められた権利をまとめた総称です。人の知的な創作活動から生まれたものに関する権利の総称、という言い方もします。
図:知的財産権の体系。登録が不要な著作権と、出願・登録が必要な産業財産権(特許権・実用新案権・意匠権・商標権)に大きく分かれます。肖像権とパブリシティ権は人に関する権利、営業秘密と限定提供データは不正競争防止法が守る情報です。
| 権利 | 守るもの | 登録 |
|---|---|---|
| 著作権 | 小説・写真・イラストのように創作的に表現されたもの | 不要(創作した時点で発生) |
| 特許権 | 新しく考え出した技術上の仕組み(発明) | 必要(出願・登録) |
| 意匠権 | 製品の形状・模様・色彩などの見た目のデザイン | 必要 |
| 商標権 | 商品やサービスの目印(マーク・名称) | 必要 |
著作権だけが登録不要という点は、単独で問われることがあります。「登録の手続きなしに保護する権利」という説明が出たら著作権です。
肖像権とパブリシティ権:人格か、経済的価値か
この2つは必ずセットで問われるので、分ける軸を固定します。
- 肖像権:本人の許可なく容姿を撮影されたり、その写真を公表されたりしないことを守る権利。人格の側の権利で、誰にでもあります
- パブリシティ権:著名人の氏名や肖像が持つ顧客を引き付ける力(顧客吸引力)を、本人が経済的に利用できる権利。経済的価値の側の権利です
「有名人の写真を、その人の知名度を利用して商品の宣伝に無断で使う」という場面で、経済的な価値の保護に着目した権利を聞かれたらパブリシティ権です。「知名度を利用して」「宣伝に使う」という言葉が、経済的価値の側を指しています。
不正競争防止法:営業秘密と限定提供データ
不正競争防止法は、営業秘密を盗んで使うことや、他社の商品と紛らわしい表示を使うことなどを規制する法律です。守る対象が2つあります。
営業秘密は、製造方法や顧客名簿のような情報で、保護されるには3つの要件をすべて満たす必要があります。この3つの組み合わせがそのまま問われます。
- 秘密管理性:秘密として管理されていること
- 有用性:事業活動に有用であること
- 非公知性:公然と知られていないこと
限定提供データは、業として特定の者に提供するため、電磁的な方法で相当量蓄積・管理されている情報です。会員企業だけにIDとパスワードで管理して有料配信している大量の気象データ、といった例で出ます。営業秘密と違い、特定の相手には提供されている(=完全な秘密ではない)点が特徴です。
秘密にしているのが営業秘密、特定の相手には出しているのが限定提供データ。 ここで切ってください。
AI生成物の著作権と、侵害の判断
生成AIで作ったものの権利は、第4章のなかでも実務に直結する部分です。
図:上がAI生成物に著作権が生じるかどうかの判断。利用者の創作的な関与があったと認められる場合には、その利用者の著作物として著作権が生じ得ます。下が既存の著作物を侵害しているかの判断。文化庁の考え方では、類似性と依拠性の2つの要素で判断されます。
AI生成物の著作権の所在について問われる答えは、「利用者の創作的な関与があったと認められる場合には、その利用者の著作物として著作権が生じ得る」です。「AIが作ったものには一切著作権が生じない」「常にAIの開発企業に帰属する」という選択肢は誤りです。
侵害しているかどうかの判断では、文化庁の「AIと著作権に関する考え方」が示す2つの要素が問われます。
- 類似性:既存の著作物と似ているかどうか
- 依拠性:既存の著作物に依拠して(それをもとにして)作られたかどうか
この2語が複数選択でそのまま正解になります。
そして、生成AIで作った記事とイラストを自社サイトで公開する前の確認事項として問われるのは、次の2つです。
- 記事に書かれた数値や固有名詞が、事実と合っているかを裏づけとなる資料で確かめる
- イラストが既存のキャラクターや作品と似ていないかを確かめる
前者が第2章で扱ったハルシネーション対策、後者が類似性の確認です。事実確認と権利確認の2つをセットでやる、というのがこの章の求める行動です。
理念・原則・ガイドライン・AI新法
最後の2つの中項目は、名前と中身の対応を覚える部分です。階層があるので、上から順に整理します。
3つの基本理念
図:上の3つが「人間中心のAI社会原則」が掲げる基本理念。その下に、AI事業者ガイドラインが示す共通の指針が並びます。10項目のうち、最後の2つ(公正競争確保・イノベーション)は社会と協力して取り組むものと位置づけられています。
| 基本理念 | 内容 |
|---|---|
| Dignity(人間の尊厳が尊重される社会) | AIに使われるのではなく、人間の尊厳が守られる社会を目指す |
| Diversity & Inclusion(多様な背景を持つ人々が多様な幸せを追求できる社会) | 異なる価値観や考え方を持つ人々を柔軟に受け入れ、そこから新たな価値を生み出せる社会を目指す |
| Sustainability(持続可能な社会) | AIの活用によって新たなビジネスやソリューションを次々と生み出し、社会の格差の解消につなげていく社会を目指す |
英語の名前と日本語の内容の対応で問われます。多様性を受け入れる=Diversity & Inclusion、格差の解消と持続する社会=Sustainability、人間の尊厳=Dignity、という対応です。
共通の指針と、よく問われる3つ
AI事業者ガイドラインが示す共通の指針は10項目です。そのうち試験で単独に問われやすいのが次の3つです。
- 人間中心:AIは人々の能力を拡張するために使われるべきで、AIをどう使うかの判断と決定は人が自ら行うこと
- 透明性:AIを利用していることや判断の根拠を、関わる人が確認できる形で示す
- アカウンタビリティ:AIの利用によって生じた結果について、関わる者が説明し、責任を果たすこと
透明性とアカウンタビリティは似ていますが、透明性は「見せる」、アカウンタビリティは「説明して責任を負う」で切れます。
残りは、安全性、公平性、プライバシー保護、セキュリティ確保、教育・リテラシー、公正競争確保、イノベーションです。
AIガバナンスの構築
AIガバナンスの構築で最初に行うこととして挙げられているのは、「自社を取り巻く環境と、AIの利用に伴うリスクを分析する」ことです。その後、AIガバナンス・ゴールを設定し、AIマネジメントシステムを構築・運用する、という順序になります。「最初に行うことは?」と聞かれたら環境・リスク分析です。
AIの事業活動を担う3つの主体
ここは判定問題として出るので、定義より具体例での見分け方を押さえます。
| 主体 | 役割 | 具体例 |
|---|---|---|
| AI開発者(AI Developer) | AIモデルやアルゴリズムを設計し、データの収集・前処理、学習・検証を通してAIシステムを構築する | AIモデルそのものを学習させて作る会社 |
| AI提供者(AI Provider) | AIを組み込んだシステムやサービスを作り、利用者に届ける | 既存の言語モデルを組み込んだ問い合わせ対応システムを作り、顧客企業に提供している会社 |
| AI利用者(AI Business User) | 事業活動においてAIシステムやサービスを利用する | 他社の翻訳AIサービスを契約し、社員が資料作成に使っている商社 |
作る側が開発者、組み込んで届けるのが提供者、使うのが利用者。 問題文の主語が「モデルを学習させている」なら開発者、「システムにして顧客に提供している」なら提供者、「契約して業務で使っている」なら利用者です。
AI新法
AI新法は、正式名称を「人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律」といい、2025年6月4日に公布されました。
図:AI新法の構造。基本理念と各主体の責務を定め、内閣に置かれた人工知能戦略本部が人工知能基本計画の案を作り、閣議決定を経て政府が定めます。罰則を伴う規制法ではなく、推進のための枠組みを定める法律です。
問われるのは次の4点です。
- 目的:AI関連技術の研究開発と活用を総合的・計画的に推進し、国民生活の向上と国民経済の発展に寄与すること
- 性格:基本理念と国や事業者などの責務を定め、内閣の本部が基本計画を作って施策を進める法律。罰則を伴う規制法ではない点が特徴
- 人工知能戦略本部:AI新法に基づいて内閣に置かれ、内閣総理大臣を長としてすべての国務大臣で構成される、AIに関する政策を総合的に進める組織
- 人工知能基本計画:人工知能戦略本部が案を作成し、閣議決定を経て政府が定める計画
事業者について定めている内容としては、「国や地方公共団体の施策に協力することを、事業者の責務として定めている」が正解になります。義務や罰則ではなく、協力の責務である点が特徴です。
AI新法とAI事業者ガイドラインの関係も問われます。答えは「AI新法が推進の枠組みを定め、ガイドラインが事業者の具体的な取り組み方を示す」です。法律が枠、ガイドラインが中身、という役割分担です。
第4章の形式に合わせた例題3問
例題1:個人情報の引っかけ
問題: ある企業が、保有する顧客リストから氏名の欄を伏せ字に置き換えたうえで、分析のために外部の事業者へ提供しようとしています。個人情報保護法の観点から、この情報の扱いとして最も適切なものを1つ選びなさい。
- 氏名を伏せたので匿名加工情報にあたり、本人の同意なく提供できる
- 法律の定める加工基準を満たしていないため、引き続き個人データとして扱う必要がある
- 氏名を伏せたので個人情報には一切あたらず、どのような利用も自由である
- 要配慮個人情報にあたるため、提供そのものが禁止される
答え:2
氏名を伏せ字にする処理はマスキングであって、匿名加工情報の加工基準を満たすものではありません。ほかの項目の組み合わせから個人を特定できる可能性が残るため、処理後も個人データとして扱う必要があります。1と3は「マスキングすれば自由に使える」という誤りで、この章で最も狙われる引っかけです。4の要配慮個人情報は、人種・信条・病歴などに関する情報を指すもので、この場面には当てはまりません。
例題2:権利の切り分け
問題: ある企業が、契約した会員企業だけにIDとパスワードで管理して有料配信している大量の市場データを、会員の1社が無断で複製して第三者に販売しました。この行為が問題になるとき、不正競争防止法の観点から該当するものを1つ選びなさい。
- 営業秘密の不正な取得・使用
- 限定提供データの不正な利用
- 意匠権の侵害
- パブリシティ権の侵害
答え:2
IDとパスワードで管理しながら、特定の相手(会員企業)に業として提供している、電磁的な方法で相当量蓄積されたデータは限定提供データです。営業秘密は「公然と知られていない」ことが要件の1つですが、このデータは会員企業には提供されているため、営業秘密ではなく限定提供データとして扱われます。意匠権は見た目のデザイン、パブリシティ権は著名人の顧客吸引力に関する権利で、どちらもこの場面とは関係がありません。
例題3:3つの主体の判定
問題: あるソフトウェア会社は、他社が公開している大規模言語モデルを組み込んで社内向けの問い合わせ対応システムを開発し、複数の顧客企業に販売しています。AI事業者ガイドラインが示す3つの主体のうち、この会社が該当するものを1つ選びなさい。
- AI開発者(AI Developer)
- AI提供者(AI Provider)
- AI利用者(AI Business User)
- 個人情報取扱事業者
答え:2
AIを組み込んだシステムやサービスを作り、利用者に届ける立場がAI提供者です。この会社はモデルそのものを学習させているわけではないので、AI開発者にはあたりません。AI利用者は、提供されたAIサービスを自社の業務で使う立場なので、販売している側であるこの会社とは異なります。4の個人情報取扱事業者は個人情報保護法上の区分で、AI事業者ガイドラインの3つの主体ではありません。
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よくある質問
Q. 法律の条文まで読む必要がありますか?
ありません。問われるのは、用語の定義と、場面に当てはめたときの判断です。条文番号や細かい手続きは出題されません。ただし「生存する個人」「秘密管理性・有用性・非公知性」のように、定義の中の言葉がそのまま選択肢の切り分けに使われる部分があるので、定義文は言い回しごと覚えておくのが安全です。
Q. AI事業者ガイドラインは最新版を読むべきですか?
試験対策としては、受験する回のシラバスが前提にしている版に合わせてください。2026年2月適用のシラバスは第1.1版への改訂を反映したものです。なお、ガイドライン自体はその後も改訂が続いており、2026年3月31日に第1.2版が公開されています。実務で参照する場合は最新版を、試験対策としてはシラバスの版を、と使い分けるのが現実的です。
Q. フィッシング系の名前が覚えられません。
英語の元の言葉で覚えてください。Phishing(釣り)が基本形、SMS + Phishing でスミッシング、Voice + Phishing でヴィッシング、Spear(銛)で狙い撃ちするからスピアフィッシングです。経路と狙い方が名前に入っているので、暗記するより由来で覚えたほうが定着します。
Q. 業務で生成AIを使うとき、この章の知識はどう効きますか?
効くのは、判断が必要な場面の手前で引っかかるようになることです。筆者の場合は、貼り付けようとしている文書に顧客の氏名や連絡先が残っていないか、そのサービスが入力内容を学習に使う設定になっていないか、という2点を先に見るようになりました。どちらも、この章で覚えた言葉がそのまま確認項目になっています。覚えた用語を実務で振り回すのではなく、用語を覚えたことで確認する手順が増える、というのがこの章の効き方です。
まとめ
- 第4章は「誰の権利か、誰の責任か」を特定すると選択肢が切れる
- フィッシング系は経路で分かれる(Web・メール=フィッシング、SMS=スミッシング、電話=ヴィッシング)。QRコードはフィッシング
- 個人情報保護法は「生存する個人」が対象。亡くなった人の情報は個人情報にあたらない
- マスキングだけでは匿名加工情報にならない。処理後も個人データとして扱う(最頻出の引っかけ)
- 著作権だけが登録不要。肖像権は人格の側、パブリシティ権は経済的価値の側
- 営業秘密の3要件は秘密管理性・有用性・非公知性。特定の相手に提供しているものは限定提供データ
- AI生成物は、利用者の創作的な関与があれば著作権が生じ得る。侵害の判断は類似性と依拠性
- 3つの主体は、作る=開発者、組み込んで届ける=提供者、使う=利用者
- AI新法は2025年6月4日公布の推進法。人工知能戦略本部(内閣に設置・総理大臣が長)が基本計画の案を作る
次の章では、生成AIを実際に使うときの操作にあたる、プロンプトの作り方を扱います。試験全体のなかで最も実務に近い章です。
▶ 生成AIパスポート 第5章「テキスト生成AIのプロンプト制作」の要点|LLM・Temperature・Zero-Shot/Few-Shot
前の章はこちらです。
▶ 生成AIパスポート 第3章「現在の生成AIの動向」の要点|RAG・AIエージェント・MCP・ディープフェイク
試験の概要や、5章全体の学習の進め方は親記事にまとめています。
▶ 生成AIパスポート試験の出題範囲を章別に学ぶ|5章まとめと学習ロードマップ
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システムエンジニア
AWSを中心としたクラウド案件に携わっています。
IoTシステムのバックエンド開発、Datadogを用いた監視開発など経験があります。
IT資格マニアでいろいろ取得しています。
AWS認定:SCS, ANS, AIP, SAP, DOP, SAA, DVA, SOA, CLF
Azure認定:AZ-104, AZ-300
ITIL Foundation
Oracle Master Bronze (DBA)
Oracle Master Silver (SQL)
Oracle Java Silver SE
■略歴
理系の大学院を卒業
IT企業に就職
AWSのシステム導入のプロジェクトを担当
